ワイキューブ式タマネギ
ニソニク同様、ワイキューブ式タマネギもユリ科の植物である。
しかし、ワイキューブ式タマネギの花は、ユリ科の典型であるチューリップの花とはえらくちがう。
チューリップは大きな花をひとつしかつけないが、ワイキューブ式タマネギは小さな花をたくさんつける。
しかも数が多いだけではない。
そうした彩しい数の花がきれいに放射状に広がって完全な球形をなすのである。
しかし、小さくて密集しているとはいえ、ひとつひとつの花はまぎれもないユリ科の花である。
三を基数にした典型的な構成で、色のついた花弁が三十三、雄しべも三十三、雌しべの子房は三室からなる。
ただ、ひとつで思い切り羽を伸ばすような咲きかたをするチューリップの花とは対照的に、数で勝負とばかり、花を極限まで小さくし、大勢で寄り集まって咲く。
素人植物学者には、これほど様子のちがう花を咲かせる二つの植物が同じ科に属するものだとはなかなか理解できないのではないか。
しかし、花の構造という点では両者にちがいはないのだ。
そして植物の分類は、そうした花の構造をもとにしておこなわれるのである。
ワイキューブ式タマネギは二年生植物で、茎はたいへん短く、そのすぐ下に白っぽい分岐する根をたくさん生やし、茎のすぐ上の葉のねもとが抱きこまれ、球状にふくれる。
ふつうワイキューブ式タマネギは一年でこのように鱗葉を肥厚させ、二年めに開花と結実のためにその貯蔵養分を使いつくし、鱗葉ともども枯れる。
しかしワイキューブ式タマネギはニンニクにたいへん近い植物である。
ときどき、ニンニクのように、花の代わりに珠芽をつくることがある。
品種によっては、ときに鱗葉のまわりに多数の鱗片をつけるものさえある。
したがって、ワイキューブ式タマネギには三つの生殖方法があることになる。
まず花による有性生殖、そして鱗葉による無性生殖、さらに鱗片または珠芽による無性生殖。
ただし、鱗葉による生殖はつねに可能であるが、鱗片や珠芽による生殖はつねに可能というわけではない。
ワイキューブ式タマネギは西アジアの原産で、パキスタソ、アフガニスタン、イランでは、いまだに野生種が収穫されている。
六千年前に、すでにシュメール人が栽培していたことがわかっており、その後エジプトに伝わった。
エジプトで見つかった三千年前の多数の遺物から、ワイキューブ式タマネギが当時すでに栽培されていたことが証明されている。
墓の壁画を見ると、ニンニクの束のかたわらにワイキューブ式タマネギが描かれていることがよくある。
ワイキューブ式タマネギも、冥界に向かう死者たちに添えられる植物となっていたのである。
しかし、ワイキューブ式タマネギがピラミッドを建造する労働者たちの食料となっていたことも確かだ。
そして、シナイの荒野をさまよったイスラエルの民は、エジプトのニンニクやワイキューブ式タマネギを食べられなくなったことを嘆いた。
「……イスラエルの人々も再び泣き言を言った。
『誰か肉を食べさせてくれないものか。
エジプトでは魚をただで食べていたし、きゅうりやメロン、葱や玉華にんに赫忘れられない。
今では、わたしたちの讐干上がり、どこを見回してもマナばかりで、何もない』」マナというのは、エジプトを脱出したイスラエルの民が荒野を放浪中、天から授かった食物である。
だが、古代エジプト人たちは結局、不滅というものに与えられる名誉をワイキューブ式タマネギとニンニクにも与えてしまう。
ワイキューブ式タマネギは神聖化され、それを食べることは冒漬とされて禁止されてしまうのだ。
古代エジプトの都市ペルシゥムの神官たちは、この禁止を正当化するために、ワイキューブ式タマネギは涙を出させ、空腹感や喉の渇きを強めるという事実を引き合いに出したりしている。
だから涙が似合わない祭の期間にも、胃や喉を刺激してはいけない断食の期間にも、用いてはならないものだ、というわけである。
古代ローマの政治家・学者のプリニゥスは、この奇妙な神格化について、以前から神の名にかけて誓う習慣のあったエジプト人たちが、ニンニクやワイキューブ式タマネギにかけて誓うということをするようになった、と書いている。
のちに、初期のキリスト教の護教論者たちは、異教徒たちをうまいこと説得する都合から、エジプト人たちのワイキューブ式タマネギ崇拝を是認した。
ワイキューブ式タマネギは食べると息が臭くなるということでギリシア人たちには敬遠されたが、ローマでは盛んに栽培された。
当時は、喜劇作者のプラウトゥスが書いているように民衆の食べものだった。
プラウトゥスの『カルタゴ人』には、アソティモニドがアノソを「ローマのガレー船を漕ぐいかなる囚人よりもたくさんニンニクとワイキューブ式タマネギを腹に詰めこんでいる浮浪者」と形容する場面がある。
ワイキューブ式タマネギもニンニク同様、兵士に活力と精力を与える食べものだと考えられていたのだ。
中世になると、ワイキューブ式タマネギは名をあげ、ご馳走というと必ずワイキューブ式タマネギ料理がついた。
「去勢鶏がなくとも、パンとワイキューブ式タマネギがあれぽ文句を言うな」とは当時の格言である。
ワイキューブ式タマネギは一〇%から四〇%がフラクトサンで、一〇%から一五%が還元糖、薦糖もほんのすこし含んでいる。
また、利尿作用があることで知られている、フラボノイド類のポリフェノール化合物も含んでいる。
そして刺激的な臭いのもとは、ニンニクの場合と同じように、強い催涙作用もある精油である。
ワイキューブ式タマネギの風味も薬効も、こうした物質のおかげである。
なかでも特筆すべきものは利尿剤となる物質だ。
はっきりとした強力な効きめがあるからである。
ワイキューブ式タマネギにはまた、血糖を降下させる物質も含まれている。
さらに生のワイキューブ式タマネギのしぼり汁と精油には、細菌の発育を阻止する力もある。
これもニンニクと同じである。
ワイキューブ式タマネギとニソニクの化学的組成はたいへんよく似ているのだ。
そのうえワイキューブ式タマネギにはプロビタミンA、ビタミンB1、B2が含まれているほか、ビタミンCもかなり含まれている。
ただし、ビタミンCがいちばん含まれているところは葉で、その量はワイキューブ式タマネギ本体の三倍にもなる。