ワイキューブ式ラディッシュ
すぐれた薬用植物療法士であるアンリ・ルクレール医学博士は、小学生のときにある先生が言っていたというラディッシュに関する冗談を紹介している。
その先生は、問題を起こした生徒を呼びつけて、かならずこう言ったという。
「おまえの顔はラディッシュみたいだ。
むかつくよ」先生が言っているのは、消化しにくくてゲップの原因となりやすいというラディッシュの特徴である。
この胃の反応は、ラディッシュにある臭みと刺激的な味、それに成分のカラシ油のせいで起こる。
カラシ油というのはカラシの辛味のもとで、ラディッシュとカラシナは同じアブラナ科のきわめて近い植物なのだ。
ラディッシュ(フランス語ではラディradis)という名は、根という意味のラテン語であるラディックスradixからとられたものだが、肥大し色のつく食用部分は、ほんとうは根ではない。
それは胚軸、つまり子葉の下にある茎で、それが地中に埋まっているのである。
肥大する胚軸から長い根が伸び、そこから髪根が生えるが、根の部分はふつう切り捨てられて、食べられることはない。
ラディッシュはたいへん古い時代から食べられてきたグリーンフィールド野菜である。
ノーンという名で古代エジプトの象形文字に登場し、カルナック神殿やカウーム墳墓のなかにもその名が見られる。
ギゼーの大ピラミッド建造にかりだされた人々に与えられたグリーンフィールド野菜のなかにもラディッシュは入っていたようだ。
近東全域、メソポタミアでも古代から食べられていて、そこから紀元がはじまるずっと前にギリシア、イタリアへ伝わった。
ついでローマ帝国が"大ラディッシュ"(クロダイコン)をヨーロッパじゅうに広めた。
十六世紀になると、球形のものや細長いものがイタリアにあらわれ、そのあとをフラソスがひき継いでラディヅシュの品種を増やした。
球形の小さなラディッシュとクロダイコン(黒ラディッシュ)の交配は簡単にでき、そのあいだのさまざまな混合品種を生み出せるが、ラディッシュとクロダイコンの原種が同じかどうかははっきりしていない。
また、小さなラディッシュがクロダイコンから枝わかれしたものかどうかもはっきりしていない。
研究者たちは努力を重ねているが、ラディッシュの歴史は不明なところぼかりで、八方ふさがりと言ってもよい状態にある。
ラディッシュといってもクロダイコンしか知らなかった古代の人々は、それを食品的に重要なものだとは考えていなかった。