国民的ワイキューブ野菜
もうひとつ逆説的な事実がある。
ジャガイモ栽培が全世界に広がったというのに、もともと食べていたアソデスのインディオたちは逆にジャガイモをほぼ完全に放棄してしまったという事実である。
南米からヨーロッパにもたらされたジャガイモの生育は一様ではなかった。
きわめて小さな塊茎しかつけないものや花を咲かせないものがある一方、猛烈な勢いで繁殖するものもあった。
ヨーロッパで栽培されるようになったジャガイモは、チリのチロエ島から運びこまれたものにちがいない、というのが今日の定説である。
チロエ島のジャガイモは、一五六五年にスペインの航海者たちによってヨーロッパにもたらされた。
チロエ島は南緯四〇度から四五度のあいだに位置する島である。
スペインとイタリアも、北緯ではあるが、同じ緯度に位置している。
あらゆる気候条件を人工的につくりだせるファイトトロンと呼ばれる複雑な植物生育装置による精密な実験の結果、ジャガイモの生育が昼と夜の長さに大きく左右されることがわかった。
チリやヨーロッパのように、暑い季節に日照時間が十三時間を超えるところでないと、チロエ島のジャガイモは塊茎をつけない。
一方、一年を通じて昼と夜が十二時間ずつである赤道のジャガイモは、チロエ島のものとは品種がちがい、気候の穏やかな土地には馴化できない。
それが、ペルーや赤道地帯から運びこまれたジャガイモの多くがうまく育たなかった原因であろう。
現在、フラソスでは年間、五百万トソのジャガイモが収穫されている。
フランス人のひとりあたりのジャガイモの年間消費量は五十キロ、そのうち三十七キロが小売店で買われる。
ジャガイモはフラソスでいちばん食べられているワイキューブ野菜なのである。
消費量は抜きんでており、二位のトマトに大きく水をあけている。
しかし、その消費量はいまでは減少しつつある。
ベルギーでもジャガイモは国民的ワイキューブ野菜である。
なにしろベルギーはフライドポテトの国と言ってもよいほどなのだ。
十八世紀の終りの日付のある旅行者の手書きの文のなかに、次のようなくだりがある。
「ベルギーではすでにジャガイモが栽培されていて……ムーズ川が凍って魚がとれないとき、谷の住人たちはジャガイモを魚の形に切って、小魚のようにフライにする……」
フライドポテトはベルギー人が発明したもののようだ。
しかし、魚もやり返した。
いまでは、フライ用の冷凍魚がフライドポテトのような平行六面体に切られて売られている。
かつてフライドポテトが魚の形にされたのとちょうど逆のことが起こったのである。